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三つ頭竜
三つ首竜(みつくびりゅう)
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 成人を迎えたばかりの羊飼いは姉と暮らしていた。
 二人には三匹の羊がいて、羊飼いは羊を飼って生活していた。

 ある日、ある男が羊飼いに話しかけた。
「私の犬とその羊を交換しないか?」
 羊飼いは首を横に振った。
「だめだ。もしその羊を売ったら姉に鞭で打たれてしまう」
「じゃあこうしよう。この金貨を一つやろう」
 羊飼いは羊を犬と交換してしまった。
 羊飼いが家に帰ると、姉は二匹しかいない羊と一匹の犬をみて、
「犬なんか飼っても何の足しにもならないじゃない」
といい、羊飼いを三回鞭で叩いた。

 翌日、昨日と違う男が羊飼いに話しかけた。
「私の犬とその羊を交換しないか?」
 羊飼いは首を横に振った。
「だめだ。もしその羊を売ったら姉に鞭で打たれてしまう」
「じゃあこうしよう。この金貨を一つやろう」
「羊は金貨で交換できるものじゃない」
 そして、もし金貨なんかで交換したら姉に鞭で殴られると羊飼いは思った。
 しかし、男は屈せず交渉を続けた。
「じゃあこうしよう。この宝石を一つやろう」
 羊飼いは羊を犬と交換してしまった。
 羊飼いが家に帰ると、姉は一匹しかいない羊と二匹の犬をみて、
「まぁ!また犬を連れてきたのかい!」
といい、羊飼いを一晩中鞭で叩いた。

 翌日、昨日と違う男が羊飼いに話しかけた。
「私の犬とその羊を交換しないか?」
 羊飼いは首を横に振った。
「だめだ。もしその羊を売ったら姉に鞭で打たれてしまう」
「じゃあこうしよう。この金貨を一つやろう」
「羊は金貨で交換できるものじゃない」
「じゃあこうしよう。この宝石を一つやろう」
「羊は宝石で交換できるものじゃない」
 そして、もし金貨や宝石なんかで交換したら姉に鞭で殴られると羊飼いは思った。
 しかし、男は屈せず交渉を続けた。
「じゃあこうしよう。このナイフを一つやろう」
 羊飼いは羊を犬と交換してしまった。
 羊飼いが家に帰ると、姉は一匹も羊がいないのを見て、
「もう許さないからね。あなたは勘当よ」
といい、羊飼いを家から追い出した。

 家から追い出された羊飼いには、一枚の金貨、宝石、ナイフ、そして三匹の犬しかない。
 日はすでに暮れた。
 とりあえず、このままでは何もできないと思った羊飼いは、町を目指した。

 羊飼いが町につく頃には、夜が明けて朝を向かえていた。
 朝だというのに町は活気がない。
 人は少なく、しゃべらず。雄鶏の甲高い鳴き声が時々聞こえてくる。
 羊飼いは何故こう人がしゃべらないのか気になって、近くを通りかかった老人に尋ねた。
「すいません。なぜこの町の人々はこんなに静かなんですか?」
 老人はすこし躊躇ったが、答えた。
「王の娘が今日の日が沈むと同時に竜に食べられるのじゃ。王様が悲しんでおられるので、市民も悲しんでいるのじゃ」
 羊飼いは姫を竜から助けられないのかと思った。
 羊飼いがそのようなことを考えていると、老人は言った。
「王は姫を助けた者に姫を娶らせると言っている」
 羊飼いは軽く老人に礼を言うと、すぐさまここを立ち去った。

 羊飼いが初めに訪れたのは酒屋だった。
 羊飼いは持っている金貨で酒を一杯だけ買い、飲んだ。
 犬達にも食べ物を与えた。
 羊飼いは自分にとって最後の酒になるかもしれないと思ったが、酒を飲んだらそんなことは忘れてしまった。

 次に羊飼いが向かったのは、鍛冶屋だった。
 羊飼いは酒を買った時に余った金で鍛冶屋に持っていたナイフを研がせた。
 切れ味が良くなったナイフを見て羊飼いはたいそう満足した。

 次に羊飼いが向かったのは、最後の目的地、王城である。
 羊飼いが王城に入ろうとすると、門番に止められた。
 門番が問う。 
「おまえはなぜ王城に入ろうとした」
「姫を殺そうとする竜を倒しにきた」
 門番は羊飼いを通した。
 羊飼いは迷路のような王城を駆け上がり、姫のいる部屋を探した。
 日は既に沈みかけていた。
 ようやく姫の部屋を見つけ出した時には、外はもう暗くなっていた。

 羊飼いが姫の部屋に入ると、目の前に現れたのは首と頭が三つある竜であった。
 姫は竜に食べられかける直前で、衣服、精神ともにかなりの傷を入れられていた。
 姫は突然入ってきた羊飼いの方を見て、
「助けてください。竜に食べられそうです」
「ご安心ください姫。竜を引き裂いて殺して見せましょう」
 そして、羊飼いは犬達に耳打ちした。「一匹につき竜の首を一つ引き裂いて持って来い」
 犬達はまず最初に均等な距離に離れて、竜の首を別々の方向へ向けさせた。
 そして、犬達は好き勝手に走り始めた。竜の首もそれを追ったが、それぞれの首が好き勝手に動いたので絡まってしまった。
 最後に犬は竜の首を引き裂いて主人の元に持ってきた。
 主人は三つの首から舌をナイフで切り取った。
 そして、羊飼いは姫に言った。
「姫、私にあなたのマントをください」
 姫は命の恩人にマントを渡した。
 羊飼いは姫のマントに竜の舌を包んだ。
 そして、それを見ていた王の家臣がいきなり部屋に入ってきた。
「青年。姫を守って頂き有難く存じます。是非王があなたにお会いしたいと申しております」
 羊飼いは家臣に招かれついて言った。
 そして、姫の部屋からそれなりに離れた羊飼いは家臣に王城の外に追い出された。
 それと同じ頃、姫は別の家臣によって捉えられた。
「もし、姫を食べようとした竜を私が殺したと言わなければ、あなたは私に殺されますよ。死にたくなければ私と結婚せよ」
 姫は泣きそうになった。その家臣と言うのが王が一番気に入っている家臣であった。が、非常に顔立ちが悪かった。もちろん姫はそんな男と結婚したくなかった。
 姫の部屋の窓辺からは月を見ることはできなかった。雲に隠れていたので。

 数日後のこと。
 宮殿で姫とその家臣の結婚が行われた。
 王はたいそう喜んだ。長年自分とともに政治をした家臣が姫の夫である故に。
 姫はたいそう悲しんだ。本当なら私を救ってくれたあの青年が今頃私の隣にいるはずなのにと。
 姫がそう思った矢先。宮殿の扉が開いた。現れたのはあの青年と三匹の犬。三つ首竜の舌を切った青年と三つ首竜を倒した三匹の犬である。
 青年は王の前で立ち止まり、こう言った。
「王様。この私の犬が、竜を退治したのです。それゆえ、あなたのお約束により、私が姫様と結婚しなければなりません」
 それを聞くと、宮殿中が騒ぎになった。
 真っ先に反論したのは王の家臣。姫と結婚するその家臣。
「私がこの竜を倒したのだ。見るが良い、この三つの首は私が討ち取ったものだ」
 その家臣は竜の首を並べて見せた。
 しかし、羊飼いは反論した。
「その首にはなにか大事なものが足りない。その首の口を開けてみなさい。舌がついておりませぬ。なぜならその竜は私が倒したものであり、その時に舌を切ったからでございます。そして、それをそこに折られる姫様のマントに包んだのでございます」

 こうして羊飼いが王女の夫となり、王の跡継ぎとなったのでした。

 一方羊飼いの姉の方は羊を無くし、弟を無くし、生をも無くした。